【「かぐや」の成果 ~ お知らせ 2012.7月) 】
本内容は、2012年7月13日付けで米科学雑誌「Geophysical Research Letters」に掲載された論文「Massive Layer of Pure Anorthosite on the Moon (Satoru Yamamoto et al.) 」に関するものです。
本研究では、スペクトルプロファイラ(SP)によって取得された月全球にわたる7000万点もの可視近赤外波長の連続反射スペクトルデータについて、斜長石の持つ分光特徴(1.25μm(マイクロメートル)付近の吸収)に着目し解析を行いました。その結果、ほぼ100%の斜長石からなる斜長岩(PAN)を持つ場所の月面全球分布(場所として134か所、観測点としては約564点)を明らかにしました(図1)。PANが見つかった場所は、月の裏側を中心とした地殻が厚い場所を中心に広がって分布しており、さらに従来はPANそのものが全く観測されていなかった北極領域や、南極域にあるシャックルトンクレーターの内部でも見つかることが分かりました。さらに詳細な地形図による解析を行った結果、PANが検出された場所は、いずれも直径100km以上の巨大な衝突クレーターの周りに限られることが分かりました。これらのことから、表面からある程度深い(10km〜数10km)ところにあるPANが、天体衝突によって掘り起こされたものと考えられます。
今回のPAN分布の特徴と、SPの先行研究で見つかったカンラン石の分布を総合的に解釈した結果、月の地殻構造について、次の3つの重要な事が推測出来ます(図2)。まず(1)月表層から約10kmまでの深さでは、PANはあまり含まれておらず、苦鉄質鉱物を含む様々な岩石の混合層からなること。これは直径100km以上の巨大な衝突クレーターにしかPANが見つからないことによります。次に(2)その混合層の下に厚さ50kmにおよぶ月原始地殻由来の大規模なPAN層が存在するということ。これは、月の裏側にある直径1000kmにも及ぶ巨大な衝突盆地の周りではPANのみが見つかり、深部にある月の上部マントルまたは下部地殻に存在するカンラン石が見つからなかったことから推測されます(図2左図)。さらに(3)地殻とマントルの境界に存在すると考えられてきた下部地殻は、月の表側と裏側でその特徴が異なること。これは、地殻とマントルの境界近くまで掘られたと考えられる表側と裏側の巨大衝突盆地を比較すると、表側の衝突盆地の周りではPANとカンラン石の両方が掘削されているのに対し、月の裏側ではPANしか掘られていないことから推測されます。この3番目の推測が本当であれば、世界ではじめて月の下部地殻の二分性を明らかにしたことになります。また、今回見つかった大規模PAN層の存在は、従来唱えられてきたマグマの海仮説(月の誕生直後は全体が大規模に溶けており、表層全体がいわゆるマグマの海に覆われていたとする説)を強く支持する観測結果です。
当該のデータ処理は、LISM/SP 機器チームが実施しました。