【「かぐや」の成果 ~ お知らせ 2014.4月 】
本内容は、2014年4月28日付で米科学雑誌「Geophysical Research Letters」に掲載された論文「Geologic Structure Generated by Large Impact Basin Formation Observed at the South Pole-Aitken Basin on the Moon (Makiko Ohtake et al.)」に関するものです。
月裏側にある巨大衝突により形成されたサウスポール・エイトケン盆地は、直径が2000キロを超え、明確に形状が残る月面最大の盆地であり、衝突によって月内部が最も深くまで掘削されたと考えられていることから、月内部の構造を知るために重要な地域とされています。そのため、これまでに月探査の着陸点候補にもなっています。ただし、盆地ができた時期が非常に古いため、サウスポール・エイトケン盆地が作られた後に発生した、より小規模な天体衝突によって盆地内部が撹拌されたり、溶岩流が噴出したことにより、現在の地質が複雑になっており、これまで詳細な地質情報は得られていませんでした。
今回の研究では、月周回衛星「かぐや」のマルチバンドイメージャ(MI)による高い空間分解能の分光画像データを用いてこの盆地内部の地質を従来よりも詳細に調べるとともに、地形情報と合わせて解析することにより、月深部の岩石が放出して堆積した領域が盆地の内部に広く分布する様子や、またそれらの岩石がどのような鉱物で構成されるかを示す事ができました。
また、衝突時に月深部の岩石が溶けて溜まっていたプール状の領域が盆地中央部にあり、この領域が盆地の他の領域と比べて表面が平坦になっていることを示すことができました。しかし、衝突盆地内に形成されるこのプール状の領域の広さについては、従来の研究によって推定される大きさよりも小さいことが判明しました。このことは、サウスポール・エイトケン盆地を形成するような大きな天体衝突が起こった場合には、これまで研究が進んでいた比較的小さな天体衝突の場合とは違う掘削のメカニズムが働く可能性があることを示しています。
今回得られた結果は、今後の月内部構造と化学組成の研究においても、また近年盛んに行われている巨大天体衝突に伴って起こる物質の放出や堆積、溶融過程の計算機シミュレーションとの比較によって、巨大衝突で起こるメカニズムを理解する上でも非常に重要な情報となります。