【「かぐや」の成果 ~ お知らせ 2014.5月】
本内容は、2014年5月4日付けで英科学雑誌「Nature Geoscience」に掲載された論文「Reorientation of the early lunar pole (Futoshi Takahashi et al.) 」に関するものです。
現在の月には地球のような大規模な磁場は存在していませんが、アポロが持ち帰った月の岩石試料を用いた実験から、約40億年前には月にも大規模磁場があった可能性が近年示唆されていました。この大規模磁場は、月中心にあるコア(※1)のダイナモ作用(※2)によって作られていたと考えられ、月の起源と進化を考える上で非常に重要な要素とされています。
本研究では、「かぐや」に搭載された月磁場観測装置(LMAG)や米国のルナ・プロスペクタの観測結果による大量のデータを解析することによって、過去の月磁場を推定することを初めて月の広い地域で行いました。その結果、約40億年前の月の磁極を推定したところ、現在の月の極付近と月裏側の中低緯度付近の二箇所に磁極が集中していました。(図1)
この結果から、太古の月には、地球と同様に大規模磁場が存在していたことがわかりました。また、地球など天体の磁極の位置は自転軸の極とほぼ一致するという性質を利用すると、40億年前の月の自転軸は現在と比較して数十度ずれた位置にあったことが推測されます。つまり、その頃の月は現在と異なる面を地球に向けていたことになります。(図2)
過去の月にダイナモ作用による大規模磁場が存在していたことにより、月に十分な大きさの中心コアがあるという、月の起源と進化のみならず、地球・月システムを理解する上で重要なことが明らかになった他、月の向きが変わるという重要なイベントが過去に起きたことも判明しました。これまでの月形成・進化モデルの多くは現在の自転軸位置を暗に仮定しているため、本研究の成果を受けて、新たな月進化モデルが構築されることが今後の課題となります。
(※1)岩石からなる天体(惑星・月)の中心部を形成する部分。主成分は鉄。
(※2)天体が大規模な磁場を生成・維持するためのメカニズム。高温で液体状のコアが磁場中を運動する際に起こる電磁誘導現象によって生じる。