【「かぐや」の成果 ~ お知らせ 2015.7月 】
本内容は、2014年12月11日付けで米科学雑誌「Icarus」に掲載された論文「Electrons on closed field lines of lunar crustal fields in the solar wind wake (Masaki N. Nishino et al.
)」に関するものです。
月が太陽風中に存在しているとき、月の夜側にはプラズマ密度の非常に低い領域が形成されています。この領域を“ウェイク”と呼びます。月の表面には局所的に磁場(磁気異常)が存在していますが、磁気異常がウェイクの中にあるときには何が起きているのでしょうか。私たちのチームでは、「かぐや」に搭載された磁場観測器LMAGとプラズマ観測器PACEのデータを用いて、強い磁気異常がウェイクの中にあるときはそこに電子が捕捉されていることを明らかにしました。
非常に強い磁気異常では、磁力線上に中エネルギー(150-300 eV程度)の電子と低エネルギー(150eV以下)の電子が共存しています(図1)。中エネルギー電子の速度分布は磁場に平行方向(ピッチ角0度方向)・反平行方向(ピッチ角180度方向)の両方でロスコーンがあり、これは磁力線が閉じていることを示しています。また、低エネルギー電子は磁力線に沿った双方向ビーム(ピッチ角0度と180度方向でフラックスが大きい)になっており、閉じた磁力線の双方の足元(夜側の月面)から電子が上昇していることを示しています(図2)。
閉じた磁力線上では磁場勾配によって生じるドリフト等によって電子が失われるため、電子を別の領域からウェイク中の磁気異常へ供給するプロセスが働いている可能性が高いと言えます。惑星間空間磁場に沿って太陽風の電子がウェイクの磁気異常へ供給されているのかもしれません。
今回の研究によって、これまで不明であった月の磁気異常の性質の一端が明らかになりました。今後、局所的に磁場を持つ天体と宇宙プラズマの相互作用の理解が進むことが期待されます。