【「かぐや」の成果 ~ お知らせ 2015.3月 】
本内容は、Luceyらによって2015年3月の第46回月惑星科学会議において発表された「A large spectral survey of small lunar craters (Lucey PG et al.)」に関するものです。
1980年代項半からの月面の分光学的研究のなかで、小規模なクレータのスペクトルによって示される紫蘇輝石斑糲岩(Norite)様の上部マントル物質と、同様な物質と考えられる中央丘とが異なる鉱物組成を示す事が、矛盾する事実として謎とされていました。この、スペクトルによって示されるNorite組成の解釈としては、斜長岩質の高地地殻と衝突盆地から噴出した苦鉄質のマントル物質が微天体の衝突時に混合されて形成されているという説も提唱されましたが、実際の観測に基づいた研究を行うためには、地球上の望遠鏡による分解能では不十分でした。(ここで「小規模なクレータ」とは直径5km以下のものを指し、そういったクレータ内部のスペクトルデータを調べようとしても、これまでの地球上の望遠鏡からの観測では十分な分解能を得る事ができませんでした。)
2007年に打上げられた「かぐや」の膨大な観測データには、500mのフットプリントで観測可能なスペクトルプロファイラー(SP)によるものが含まれています。そこで、本研究ではSPによる観測データのうち4506カ所もの小規模クレータのスペクトルデータが、先に述べた謎を解くために利用されました。
クレータ内部の物質の比較的新鮮な状態を観測するために宇宙風化による変化の少ない箇所のクレータのみを、さらに、地形による陰などの影響を排除するために北緯50度以南、南緯50度以北の地域を対象として4506カ所のクレータが選定されました。
対象地域のスペクトルデータは、これまでアポロサンプル等をベースに構築されたLSCC(Lunar Soils Characterization Consortium)のデータベースと比較しながら解析されました。その結果、小規模クレータのスペクトルは大きく三つに分けられました。一つは月の海地域に位置しており高カルシウム輝石の吸収パターンを良く示すグループ、一つは高地地殻に位置しておりNorite様のスペクトルパターン(0.905µmの吸収帯)を示すグループ、更に一つは南極エイトケン盆地に位置しており0.92µmの吸収帯を示すグループでした。
1986年にPietersらが提唱したように、中央丘の組成と小規模なクレータのNorite様な組成とが異なっていることは今回の研究でもはっきりと確認されました。また、高地地殻に位置するクレータのグループのスペクトルには高カルシウム輝石の存在は確認できず、苦鉄質物質としては斜方輝石(orthopyroxene)のみが含まれることが示されました。
さらに本研究では混合モデルをいくつかシミュレーションとして実施することで、上部マントル物質は衝突盆地からの噴出物の大きな破片を含んでおり、その超苦鉄質な組成が斜長岩質な地殻の組成と混合されることにより、高地の小規模クレータに見られる苦鉄質組成を提示することが可能であることを示しました。この仮定が正しければ、上部マントル物質に含まれる衝突盆地からの噴出物の殆どの部分が斜方輝石であることが必要となり、月の進化を考える上で必要な制約条件が一つ与えられる事となり、今後の研究がさらに進むことが期待されます。