【「かぐや」の成果 ~ お知らせ 2016.1月 】
本内容は、2015年11月3日付けで米科学雑誌「Planetary and Space Science」に掲載された論文「Two-Stage Development of the Lunar Farside Highlands Crustal Formation (Keiko Yamamto et al.
)」に関するものです。
月は地球にいつも同じ面を向けていますが、探査機などが月の裏側も調べてくるようになってから、地球に向いている「表側(nearside)」と、地球からは見えない「裏側(farside)」とが非常に異なっていることがわかってきました。表側には「海」と呼ばれる黒っぽい平坦な地形が多く、裏側には「高地」と呼ばれる白っぽく凸凹した地形が多かったのです。
この非対称な月の地殻の形成過程を明らかにするために、たくさんの研究が行われて様々な仮説が唱えられましたが、これまでの多くの研究成果は高い精度の観測データに基づいたものではありませんでした。
そのような背景の中、1998年に打上げられたルナ・プロスペクターによる観測によって、月の表側にはトリウム元素が多く分布し、裏側には少ないことが示されました。トリウム元素は月の地殻を作ったと考えられるマグマから最初に晶出する斜長石にはあまり含まれないため、低いトリウム濃度の地域が古い地殻ではないかと考えられました。
本研究ではルナ・プロスペクターのデータよりも、より詳細なトリウム濃度マップと高精度な重力場観測によって示された月の地殻厚さモデルを用いて、月裏側高地地殻の形成過程について新たな仮説を発表しました。
まず、かぐやに搭載されたGRS(ガンマ線分光計)による観測結果から得られたトリウム濃度マップと、LRO(Lunar Reconnaissance Orbiter)およびGRAIL(Gravity Recovery and Interior Laboratory)の観測結果から得られた月地殻厚さを対比させたところ、地殻の厚さとトリウム濃度に相関がない箇所が存在することが示されました。
そこで、次のような、地殻が二段階で形成されたとするシナリオによって、この状態が説明できることを示しました。
<月地殻の形成シナリオ>
第一段階:地球の海で氷ができる時のように、マグマの海の表面で結晶が成長し、薄い台状の地殻がプレート状に複数枚形成されます。
第二段階:第一段階で形成された地殻の下で、マグマがさらに固まって、最初の薄い台状の地殻の下にゆっくりと地殻が形成されていきます。